くこの美しい看護婦から自分は運勢早見《うんせいはやみ》なんとかいう、玩具《おもちゃ》の占《うらな》いの本みたようなものを借りて、三沢の室でそれをやって遊んだ。
 これは赤と黒と両面に塗り分けた碁石《ごいし》のような丸く平たいものをいくつか持って、それを眼を眠《ねむ》ったまま畳の上へ並べて置いて、赤がいくつ黒がいくつと後から勘定《かんじょう》するのである。それからその数字を一つは横へ、一つは竪《たて》に繰って、両方が一点に会《かい》したところを本で引いて見ると、辻占《つじうら》のような文句が出る事になっていた。
 自分が眼を閉じて、石を一つ一つ畳の上に置いたとき、看護婦は赤がいくつ黒がいくつと云いながら占《うらな》いの文句を繰ってくれた。すると、「この恋もし成就《じょうじゅ》する時は、大いに恥を掻《か》く事あるべし」とあったので、彼女は読みながら吹き出した。三沢も笑った。
「おい気をつけなくっちゃいけないぜ」と云った。三沢はその前から「あの女」の看護婦に自分が御辞儀《おじぎ》をするところが変だと云って、始終《しじゅう》自分に調戯《からか》っていたのである。
「君こそ少し気をつけるが好い」
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