以上に詳《くわ》しく知っていた。そうして自分が病院に行くたびに、その話を第一の問題として持ち出した。彼は自分のいない間《ま》に得た「あの女」の内状を、あたかも彼と関係ある婦人の内所話《ないしょばなし》でも打ち明けるごとくに語った。そうしてそれらの知識を自分に与えるのを誇りとするように見えた。
 彼の語るところによると「あの女」はある芸者屋の娘分として大事に取扱かわれる売子《うれっこ》であった。虚弱な当人はまたそれを唯一の満足と心得て商売に勉強していた。ちっとやそっと身体《からだ》が悪くてもけっして休むような横着はしなかった。時たま堪《た》えられないで床に就《つ》く場合でも、早く御座敷に出たい出たいというのを口癖にしていた。……
「今あの女の室《へや》に来ているのは、その芸者屋に古くからいる下女さ。名前は下女だけれど、古くからいるんで、自然権力があるから、下女らしくしちゃいない。まるで叔母さんか何ぞのようだ。あの女も下女のいう事だけは素直によく聞くので、厭《いや》がる薬を呑ませたり、わがままを云い募《つの》らせないためには必要な人間なんだ」
 三沢はすべてこういう内幕《うちまく》の出所《
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