さなかった。三沢は盆を持ったまま、引く事もできず進む事もできない態度で立っていた。女の顔が先刻《さっき》見た時よりも子供子供した苦痛の表情に充《み》ちていた。
二十
自分は先刻から「もう一人の女」に特別の注意を払っていた。それには三沢の様子や態度が有力な原因となって働いていたに違ないが、単独に云っても、彼女は自分の視線を引着けるに足るほどな好い器量《きりょう》をもっていたのである。自分は彼女と三沢の細君になるべき人との後姿《うしろすがた》を、舞楽《ぶがく》の相間相間に絶えず眺めた。彼らは自分の坐っている所から、ことさらな方向に眸子《ひとみ》を転ずる事なしに、自然と見られるように都合の好い地位に坐っていた。
こうして首筋ばかり眺めていた自分は今比較的自由な場所に立って、彼らの顔立を筋違《すじかい》に見始めた。あるいは正面に動く機会が来るかも知れないと思った時、自分はチョコレートを頬張《ほおば》りながら、暗《あん》にその瞬間を捉《とら》える注意を怠《おこた》らなかった。けれどもその女も三沢の意中の人も、ついにこっちを向かなかった。自分はただ彼らの容貌《ようぼう》を三
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