交換した。男の顔にはできるだけの愛嬌《あいきょう》が湛《たた》えられた。女は心持顔を赤くした。三沢はわざわざ腰を浮かして起立した。婦人はたいてい前の方に席を占めるので、彼らはついに自分達の傍《そば》へは来なかった。
「あれが僕の妻《さい》になるべき人だ」と三沢は小声で自分に告げた。自分は腹の中で、あの夢のような大きな黒い眼の所有者であった精神病のお嬢さんと、自分の二三間前に今席を取った色沢《いろつや》の好いお嬢さんとを比較した。彼女は自分にただ黒い髪と白い襟足《えりあし》とを見せて坐っていた。それも人の影に遮《さえぎ》られて自由には見られなかった。
「もう一人の女ね」と三沢がまた小声で云いかけた。それから彼は突然ポッケットへ手を入れて、白い紙片《かみきれ》と万年筆を取り出した。彼はすぐそれへ何か書き始めた。正面の舞台にはもう楽人《がくじん》が現われた。
十九
彼らは帽子とも頭巾《ずきん》とも名の付けようのない奇抜なものを被《かぶ》っていた。謡曲の富士太鼓を知っていた自分は、おおかたこれが鳥兜《とりかぶと》というものだろうと推察した。首から下も被りものと同じく現代を
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