がって自分が彼らの前に坐《すわ》っている間、彼らは兄を云々するほか、何人《なんびと》の上にも非難を加えなかった。平生から兄に対する嫂の仕打に飽《あ》き足らない顔を見せていた母でさえ、この時は彼女についてついに一口も訴えがましい言葉を洩《も》らさなかった。
 彼らの不平のうちには、同情から出る心配も多量に籠《こも》っていた。彼らは兄の健康について少からぬ掛念《けねん》をもっていた。その健康に多少支配されなければならない彼の精神状態にも冷淡ではあり得なかった。要するに兄の未来は彼らにとって、恐ろしいX《エッキス》であった。
「どうしたものだろう」
 これが相談の時必ず繰り返されべき言葉であった。実を云えば、一人一人離れている折ですら、胸の中《うち》でぼんやり繰り返して見るべき二人の言葉であった。
「変人《へんじん》なんだから、今までもよくこんな事があったには有ったんだが、変人だけにすぐ癒《なお》ったもんだがね。不思議だよ今度《こんだ》は」
 兄の機嫌買《きげんかい》を子供のうちから知り抜いている彼らにも、近頃の兄は不思議だったのである。陰欝《いんうつ》な彼の調子は、自分が下宿する前後から今
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