るじゃありませんか。だけど、気味が悪いわね、いくら学問だってそんな事をしちゃ」
自分もおかしいうちに何だか気味の悪い心持がした。座敷へ帰って来ると、嫂の姿はもうそこに見えなかった。父と母は差し向いになって小さな声で何か話し合っていた。その様子が今しがた自分一人で家中を陽気にした賑《にぎ》やかな人の様子とも見えなかった。「ああ育てるつもりじゃなかったんだがね」という声が聞えた。
「あれじゃ困りますよ」という声も聞えた。
十二
自分はその席で父と母から兄に関する近況の一般を聞いた。彼らの挙《あ》げた事実は、お重を通して得た自分の知識に裏書をする以外、別に新しい何物をも付け加えなかったけれども、その様子といい言葉といい、いかにも兄の存在を苦《く》にしているらしく見えて、はなはだ痛々しかった。彼ら(ことに母)は兄一人のために宅中《うちじゅう》の空気が湿《しめ》っぽくなるのを辛《つら》いと云った。尋常の父母以上にわが子を愛して来たという自信が、彼らの不平を一層濃く染めつけた。彼らはわが子からこれほど不愉快にされる因縁《いんねん》がないと暗に主張しているらしく思われた。した
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