き落した。お重は厭《いや》な顔をした。
「それペン皿よ。灰皿じゃないわよ」
 自分は嫂《あによめ》ほどに頭のできていないお重から、何も得るところのないのを覚《さと》って、また父や母のいる座敷へ帰ろうとした時、突然妙な話を彼女から聞いた。
 その話によると、兄はこの頃テレパシーか何かを真面目《まじめ》に研究しているらしかった。彼はお重を書斎の外に立たしておいて、自分で自分の腕を抓《つね》った後《あと》「お重、今兄さんはここを抓ったが、お前の腕もそこが痛かったろう」と尋ねたり、または室《へや》の中で茶碗の茶を自分一人で飲んでおきながら、「お重お前の咽喉《のど》は今何か飲む時のようにぐびぐび鳴りやしないか」と聞いたりしたそうである。
「妾《あたし》説明を聞くまでは、きっと気が変になったんだと思って吃驚《びっく》りしたわ。兄さんは後で仏蘭西《フランス》の何とかいう人のやった実験だって教えてくれたのよ。そうしてお前は感受性が鈍いから罹《かか》らないんだって云うのよ。妾《あたし》嬉《うれ》しかったわ」
「なぜ」
「だってそんなものに罹るのはコレラに罹るより厭だわ妾」
「そんなに厭かい」
「きまって
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