いながらそこいらを見廻した。
 机の上には和製のマジョリカ皿があった。薔薇《ばら》の造り花がセゼッション式の一輪瓶《いちりんざし》に挿《さ》してあった。白い大きな百合《ゆり》を刺繍《ぬい》にした壁飾りが横手にかけてあった。
「ハイカラじゃないか」
「ハイカラよ」
 お重の澄ました顔には得意の色が見えた。
 自分はしばらくそこでお重に調戯《からか》っていた。五六分してから彼女に「近頃兄さんはどうだい」とさも偶然らしく問いかけて見た。すると彼女は急に声を潜《ひそ》めて、「そりゃ変なのよ」と答えた。彼女の性質は嫂とは全く反対なので、こう云う場合には大変都合が好かった。いったん緒口《いとぐち》さえ見出せば、あとはこっちで水を向ける必要も何もなかった。隠す事を知らない彼女は腹にある事をことごとく話した。黙って聞いていた自分にもしまいには蒼蠅《うるさ》いほどであった。
「つまり兄さんが家《うち》のものとあんまり口を利《き》かないと云うんだろう」
「ええそうよ」
「じゃ僕の家を出た時と同じ事じゃないか」
「まあそうよ」
 自分は失望した。考えながら、煙草《たばこ》の灰をマジョリカ皿の中へ遠慮なくはた
前へ 次へ
全520ページ中392ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング