刻が時刻なので、往来は今が人の出盛りであった。華《はな》やかな色と、陽気な肉と、浮いた足並の簇《むら》がるなかでこう云った父の言葉は、妙に周囲と調和を欠いていた。
 自分は番町と下宿と方角の岐《わか》れる所で、父に別れようとした。
「用があるのかい」
「ええ少し……」
「まあ好いから宅《うち》までおいで」
 自分は帽子の鍔《つば》へ手をかけたまま躊躇《ちゅうちょ》した。
「いいからおいでよ。自分の宅じゃないか。たまには来るものだ」
 自分はきまりの悪い顔をして父の後《あと》に随《した》がった。父はすぐ後《うしろ》をふり向いた。
「宅じゃ近頃御前が来ないので、みんな不思議がってるんだぜ。二郎はどうしたんだろうって。遠慮が無沙汰《ぶさた》というが、御前のは無遠慮が無沙汰になるんだからなお悪い」
「そう云う訳でもありませんが。……」
「何しろ来るが好い。言訳は宅へ行って、御母さんにたんとするさ。おれはただ引っ張って行く役なんだから」
 父はずんずん歩いた。自分は腹の中であたかも丁年《ていねん》未満の若者のような自分の態度を苦笑しながら、黙って父と歩調を共にした。その日はこの間とは打って変って
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