まさか二度目じゃなかろうよ」
 二人は山を下りてとうとうその左側にある洋食屋に這入《はい》った。
「ここは往来がよく見える。ことに寄ると一郎が、絹帽を被《かぶ》って通るかも知れないよ」
「嫂《ねえ》さんもいっしょなんですか」
「さあ。どうかね」
 二階の窓際近くに席を占めた自分達は、花で飾られた低い瓶《ヴァーズ》を前に、広々した三橋《みはし》の通りを見下した。

        九

 食事中父は機嫌《きげん》よく話した。しかし用談らしい改まったものは、珈琲《コーヒー》を飲むまでついに彼の口に上《のぼ》らなかった。表へ出た時、彼は始めて気のついたらしい顔をして、向う側の白い大きな建物を眺めた。
「やあいつの間にか勧工場《かんこうば》が活動に変化しているね。ちっとも知らなかった。いつ変ったんだろう」
 白い洋館の正面に金字で書いてある看板の周囲は、無数の旗の影で安価に彩《いろど》られていた。自分は職業柄、さも仰山《ぎょうさん》らしく東京の真中に立っているこの粗末な建築を、情ない眼つきで見た。
「どうも驚くね世の中の早く変るには。そう思うとおれなぞもいつ死ぬか分らない」
 好い日曜なのと時
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