ども、本当の底を割って見ると、柔和《やさ》しい母の方が、苛酷《きび》しい父よりはかえって怖《こわ》かった。自分は父に怒られたり小言を云われたりする時に、恐縮はしながらも、やっぱり男は男だと腹の中で思う事がたびたびあった。けれどもこの場合はいつもと違っていた。いくら父でもそう容易《たやす》く高を括《くく》る訳に行かなかった。電話をかけようとした自分はまたかけ得ずにしまった。
父はとうとう十時頃になってやって来た。羽織《はおり》袴《はかま》で少しきまり過ぎた服装《なり》はしていたが、顔つきは存外穏かであった。小さい時から彼の手元で育った自分は、事のあるかないかを彼の顔色からすぐ判断する功を積んでいた。
「もっと早くおいでだろうと思って先刻《さっき》から待っていました」
「おおかた床の中で待ってたんだろう。早いのはいくら早くっても驚かないが、御前に気の毒だからわざと遅く出かけたのさ」
父は自分の汲《く》んで出した茶を、飲むように甞《な》めるように、口の所へ持って行って、室《へや》の中をじろじろ見廻した。室には机と本箱と火鉢があるだけであった。
「好い室だね」
父は自分達に対してもよくこ
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