んな愛嬌《あいきょう》を云う男であった。彼が長年社交のために用い慣れた言葉は、遠慮のない家庭にまで、いつか這入り込んで来た。それほど枯れた御世辞《おせじ》だから、それが自分には他《ひと》の「御早う」ぐらいにしか響かなかった。
 彼は三尺の床《とこ》を覗《のぞ》いてそこに掛けた幅物《ふくもの》を眺め出した。
「ちょうど好いね」
 その軸は特にここの床《とこ》の間《ま》を飾るために自分が父から借りて来た小形の半切《はんせつ》であった。彼が「これなら持って行っても好い」と投げ出してくれただけあって、自分にはちょうど好くも何ともない変なものであった。自分は苦笑してそれを眺めていた。
 そこには薄墨で棒が一本|筋違《すじかい》に書いてあった。その上に「この棒ひとり動かず、さわれば動く」と賛《さん》がしてあった。要するに絵とも字とも片《かた》のつかないつまらないものであった。
「御前は笑うがね。これでも渋いものだよ。立派な茶懸《ちゃがけ》になるんだから」
「誰でしたっけね書き手は」
「それは分らないが、いずれ大徳寺か何か……」
「そうそう」
 父はそれで懸物《かけもの》の講釈を切り上げようとはしな
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