葉の寡《すく》ない嫂が自分にだけそれを話し出したのだろうか。彼女は平生から落ちついている。今夜も平生の通り落ちついていた。彼女は昂奮《こうふん》の極《きょく》訴える所がないので、わざわざ自分を訪《と》うたものとは思えなかった。だいち訴えという言葉からしてが彼女の態度には不似合であった。結果から云えば、自分は先刻《さっき》云った通りむしろ彼女から焦慮《じら》されたのであるから。
彼女は火鉢にあたる自分の顔を見て、「なぜそう堅苦《かたくる》しくしていらっしゃるの」と聞いた。自分が「別段堅苦しくはしていません」と答えた時、彼女は「だって反《そ》っ繰《く》り返《かえ》ってるじゃありませんか」と笑った。その時の彼女の態度は、細い人指《ひとさし》ゆびで火鉢の向側から自分の頬《ほっ》ぺたでも突っつきそうに狎《な》れ狎れしかった。彼女はまた自分の名を呼んで、「吃驚《びっくり》したでしょう」と云った。突然雨の降る寒い晩に来て、自分を驚かしてやったのが、さも愉快な悪戯《いたずら》ででもあるかのごとくに云った。……
自分の想像と記憶は、ぽたりぽたりと垂れる雨滴《あまだれ》の拍子《ひょうし》のうちに、それ
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