とか、「何心配するほどの事じゃなくってよ」とか答えてただ微笑するのが常であった。それをまるで逆《さか》さまにして、自分の最も心苦しく思っている問題の真相を、向うから積極的にこちらへ吐きかけたのだから、卑怯《ひきょう》な自分は不意に硫酸を浴《あび》せられたようにひりひりとした。
しかしいったん緒《いとぐち》を見出した時、自分はできるだけ根掘り葉掘り聞こうとした。けれども言葉の浪費を忌《い》む彼女は、そうこちらの思い通りにはさせなかった。彼女の口にするところは重《おも》に彼ら夫婦間に横たわる気不味《きまず》さの閃電《せんでん》に過ぎなかった。そうして気不味さの近因についてはついに一言《ひとこと》も口にしなかった。それを聞くと、彼女はただ「なぜだか分らないのよ」というだけであった。実際彼女にはそれが分らないのかも知れなかった。また分っている癖にわざと話さないのかも知れなかった。
「どうせ妾《あたし》がこんな馬鹿に生れたんだから仕方がないわ。いくらどうしたってなるようになるよりほかに道はないんだから。そう思って諦《あき》らめていればそれまでよ」
彼女は初めから運命なら畏《おそ》れないという
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