々《しょうしょう》とした。昼間|吹募《ふきつの》った西北《にしきた》の風は雨と共にぱったりと落ちたため世間は案外静かになっていた。ただ時を区切《くぎ》って樋《とい》を叩《たた》く雨滴《あまだれ》の音だけがぽたりぽたりと響いた。嫂《あによめ》は平生《いつも》の通り落ちついた態度で、室《へや》の中を見廻しながら「なるほど好い御室ね、そうして静《しずか》だ事」と云った。
「夜だから好く見えるんです。昼間来て御覧なさい、ずいぶん汚ならしい室ですよ」
自分はしばらく嫂と応対していた。けれども今自白すると腹の中は話の調子で示されるほど穏かなものではけっしてなかった。自分は嫂がこの下宿へ訪ねて来《き》ようとはその時までけっして予期していなかったのである。空想にすら描いていなかったのである。彼女の姿を上《あが》り口《ぐち》の土間に見出した時自分ははっと驚いた。そうしてその驚きは喜びの驚きよりもむしろ不安の驚きであった。
「何で来たのだろう。何でこの寒いのにわざわざ来たのだろう。何でわざわざ晩になって灯《ひ》が点《つ》いてから来たのだろう」
これが彼女を見た瞬間の疑惑であった。この疑惑に初手《しょて
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