》からこだわった自分の胸には、火鉢を隔てて彼女と相対している日常の態度の中《うち》に絶えざる圧迫があった。それが自分の談話や調子に不愉快なそらぞらしさを与えた。自分はそれを明かに自覚した。それからその空々《そらぞら》しさがよく相手の頭に映っているという事も自覚した。けれどもどうする訳にも行かなかった。自分は嫂に「冴《さ》え返って寒くなりましたね」と云った。「雨の降るのに好く御出かけですね」と云った。「どうして今頃御出かけです」と聞いた。対話がそこまで行っても自分の胸に少しの光明を投げなかった時、自分は硬《かた》くなった、そうしてジョコンダに似た怪しい微笑の前に立ち竦《すく》まざるを得なかった。
「二郎さんはしばらく会わないうちに、急に改まっちまったのね」と嫂が云い出した。
「そんな事はありません」と自分は答えた。
「いいえそうよ」と彼女が押し返した。

        三

 自分はつと立って嫂の後《うしろ》へ廻った。彼女は半間《はんげん》の床《とこ》を背にして坐っていた。室が狭いので彼女の帯のあたりはほとんど杉の床柱とすれすれであった。自分がその間へ一足割り込んだ時、彼女は窮屈そうに
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