たぎりであった。自分は今まで坐《すわ》っていた蒲団《ふとん》の裏を返して、それを三尺の床の前に直して、「さあこっちへいらっしゃい」と勧めた。彼女はコートの片袖《かたそで》をするすると脱ぎながら「そうお客扱いにしちゃ厭《いや》よ」と云った。自分は茶器を洒《すす》がせるために電鈴《ベル》を押した手を放して、彼女の顔を見た。寒い戸外の空気に冷えたその頬《ほお》はいつもより蒼白《あおじろ》く自分の眸子《ひとみ》を射た。不断から淋《さむ》しい片靨《かたえくぼ》さえ平生《つね》とは違った意味の淋しさを消える瞬間にちらちらと動かした。
「まあ好いからそこへ坐って下さい」
 彼女は自分の云う通りに蒲団の上に坐った。そうして白い指を火鉢《ひばち》の上に翳《かざ》した。彼女はその姿から想像される通り手爪先《てづまさき》の尋常《じんじょう》な女であった。彼女の持って生れた道具のうちで、初《はじめ》から自分の注意を惹《ひ》いたものは、華奢《きゃしゃ》に出来上ったその手と足とであった。
「二郎さん、あなたも手を出して御あたりなさいな」
 自分はなぜか躊躇《ちゅうちょ》して手を出しかねた。その時雨の音が窓の外で蕭
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