訪問を予期していたのである。
「いいえ女の方です」
「女の人?」
自分は不審の眉《まゆ》を寄せて下女に見せた。下女はかえって澄ましていた。
「こちらへ御通し申しますか」
「何という人だい」
「知りません」
「知りませんって、名前を聞かないでむやみに人の室へ客を案内する奴《やつ》があるかい」
「だって聞いてもおっしゃらないんですもの」
下女はこう云って、また先刻《さっき》のような意地の悪い笑を目元で笑った。自分はいきなり火鉢から手を放して立ち上った。敷居際に膝を突いている下女を追い退《の》けるようにして上《あが》り口《ぐち》まで出た。そうして土間の片隅にコートを着たまま寒そうに立っていた嫂《あによめ》の姿を見出した。
二
その日は朝から曇っていた。しかも打ち続いた好天気を一度に追い払うように寒い風が吹いた。自分は事務所から帰りがけに、外套《がいとう》の襟《えり》を立てて歩きながら道々雨になるのを気遣《きづか》った。その雨が先刻《さっき》夕飯《ゆうめし》の膳《ぜん》に向う時分からしとしとと降り出した。
「好くこんな寒い晩に御出かけでした」
嫂は軽く「ええ」と答え
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