どういう手段で結びつけて行くだろうと考えた。
自分が不意に下宿の下女から驚かされたのは、ちょうどこんな風に現実と空想の間に迷ってじっと火鉢に手を翳《かざ》していた、ある宵《よい》の口《くち》の出来事であった。自分は自分の注意を己《おの》れ一人に集めていたというものか、実際下女の廊下を踏んで来る足音に気がつかなかった。彼女が思いがけなくすうと襖《ふすま》を開けた時自分は始めて偶然のように眼を上げて彼女と顔を見合せた。
「風呂かい」
自分はすぐこう聞いた。これよりほかに下女が今頃自分の室《へや》の襖を開けるはずがないと思ったからである。すると下女は立ちながら「いいえ」と答えたなり黙っていた。自分は下女の眼元に一種の笑いを見た。その笑いの中《うち》には相手を翻弄《ほんろう》し得た瞬間の愉快を女性的《にょしょうてき》に貪《むさぼ》りつつある妙な閃《ひらめき》があった。自分は鋭く下女に向って、「何だい、突立《つった》ったまま」と云った。下女はすぐ敷居際《しきいぎわ》に膝《ひざ》を突いた。そうして「御客様です」とやや真面目《まじめ》に答えた。
「三沢だろう」と自分が云った。自分はある事で三沢の
前へ
次へ
全520ページ中361ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング