ひざ》の上に載せたまま平気で控えていた。結婚当日の少し前、兄から書斎へ呼ばれて出て来た時、彼女の顔を染めた色と、彼女の瞼《まぶた》に充《み》ちた涙が、彼女の未来のために、何を語っていたか知らないが、彼女の気質から云えば、それがために長い影響を受けようとも思えなかった。
お貞さんが去ると共に冬も去った。去ったと云うよりも、まず大した事件も起らずに済んだと評する方が適当かも知れない。斑《まだ》らな雪、枯枝を揺《ゆさ》ぶる風、手水鉢《ちょうずばち》を鎖《と》ざす氷、いずれも例年の面影《おもかげ》を規則正しく自分の眼に映した後、消えては去り消えては去った。自然の寒い課程がこう繰返されている間、番町の家はじっとして動かずにいた。その家の中にいる人と人との関係もどうかこうか今まで通り持ち応《こた》えた。
自分の地位にも無論変化はなかった。ただお重が遊び半分時々苦情を訴えに来た。彼女は来るたびに「お貞さんはどうしているでしょうね」と聞いた。
「どうしているでしょうって、――お前の所へ何とも云って来ないのか」
「来る事は来るわ」
聞いて見ると、結婚後のお貞さんについて、彼女は自分より遥《はるか》
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