に豊富な知識をもっていた。
自分はまた彼女が来るたびに、兄の事を聞くのを忘れなかった。
「兄さんはどうだい」
「どうだいって、あなたこそ悪いわ。家《うち》へ来ても兄さんに逢《あ》わずに帰るんだから」
「わざわざ避けるんじゃない。行ってもいつでも留守なんだから仕方がない」
「嘘《うそ》をおっしゃい。この間来た時も書斎へ這入《はい》らずに逃げた癖に」
お重は自分より正直なだけに真赤《まっか》になった。自分はあの事件以後どうかして兄と故《もと》の通り親しい関係になりたいと心では希望していたが、実際はそれと反対で、何だか近寄り悪《にく》い気がするので、全くお重の云うごとく、宅《うち》へ行って彼に挨拶《あいさつ》する機会があっても、なるべく会わずに帰る事が多かった。
お重にやり込められると、自分は無言の降意を表するごとくにあははと笑ったり、わざと短い口髭《くちひげ》を撫《な》でたり、時によると例の通り煙草に火を点《つ》けて瞹眛《あいまい》な煙を吐いたりした。
そうかと思うとかえってお重の方から突然「大兄さんもずいぶん変人ね。あたし今になって全くあなたが喧嘩《けんか》して出たのも無理はない
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