フォームの上で、二三日箱根あたりで逗留《とうりゅう》するはずのお貞さんを見送った後《あと》、父や兄に別れて独《ひと》り自分の下宿へ帰った。そうして途々《みちみち》自分にも当然番の廻ってくるべき結婚問題を人生における不幸の謎《なぞ》のごとく考えた。
三十七
お貞さんが攫《さら》われて行くように消えてしまった後の宅《うち》は、相変らずの空気で包まれていた。自分の見たところでは、お貞さんが宅中《うちじゅう》で一番の呑気《のんき》ものらしかった。彼女は永年世話になった自分の家に、朝夕《あさゆう》箒《ほうき》を執《と》ったり、洗《あら》い洒《そそ》ぎをしたりして、下女だか仲働だか分らない地位に甘んじた十年の後《あと》、別に不平な顔もせず佐野といっしょに雨の汽車で東京を離れてしまった。彼女の腹の中も日常彼女の繰り返しつつ慣れ抜いた仕事のごとく明瞭《めいりょう》でかつ器械的なものであったらしい。一家|団欒《だんらん》の時季とも見るべき例の晩餐《ばんさん》の食卓が、一時重苦しい灰色の空気で鎖《とざ》された折でさえ、お貞さんだけはその中に坐って、平生と何の変りもなく、給仕の盆を膝《
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