父だの母だの自分達は、この二様の意味をもった夫婦と、絵の具で塗り潰《つぶ》した綺麗《きれい》な太鼓と、何物を中に蔵《かく》しているか分らない、御簾《みす》を静粛に眺めた。
 兄は腹のなかで何を考えているか、よそ目から見ると、尋常と変るところは少しもなかった。嫂《あによめ》は元より取《と》り繕《つくろ》った様子もなく、自然そのままに取り済ましていた。
 彼らはすでに過去何年かの間に、夫婦という社会的に大切な経験を彼らなりに甞《な》めて来た、古い夫婦であった。そうして彼らの甞めた経験は、人生の歴史の一部分として、彼らに取っては再びしがたい貴《たっと》いものであったかも知れない。けれどもどっちから云っても、蜜《みつ》に似た甘いものではなかったらしい。この苦《にが》い経験を有する古夫婦が、己《おの》れ達のあまり幸福でなかった運命の割前を、若い男と若い女の頭の上に割りつけて、また新しい不仕合な夫婦を作るつもりなのかしらん。
 兄は学者であった。かつ感情家であった。その蒼白《あおじろ》い額の中にあるいはこのくらいな事を考えていたかも知れない。あるいはそれ以上に深い事を考えていたかも知れない。あるい
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