ら媒妁人《ばいしゃくにん》をもって任じながら、その細君を連れて来ない不注意に少しも気がついていないらしかった。自分から呑気の訳を聞いた時、彼は苦笑して頭を掻《か》きながら、「実は伴《つ》れて来《き》ようと思ったんですがね、まあどうかなるだろうと思って……」と答えた。
 反橋を降りて奥へ這入《はい》ろうという入口の所で、花嫁は一面に張り詰められた鏡の前へ坐《すわ》って、黒塗の盥《たらい》の中で手を洗っていた。自分は後《うしろ》から背延《せいのび》をして、お貞さんの姿を見た時、なるほどこれで列が後《おく》れるんだなと思うと同時に吹き出したくなった。せっかく丹精して塗り立てた彼女の手も、この神聖な一杓《ひとしゃく》の水で、無残《むざん》に元のごとく赤黒くされてしまったのである。
 神殿の左右には別室があった。その右の方へ兄が佐野さんを伴れて這入った。その左の方へ嫂《あによめ》がお貞さんを伴れて這入った。それが左右から出て来て着座するのを見ると、兄夫婦は真面目な顔をして向い合せに坐っていた。花嫁花婿も無論の事、謹《つつし》んだ姿で相対していた。
 式壇を正面に、後《うしろ》の方にずらりと並んだ
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