ト》を被《かぶ》っていた。
いよいよ出る時に、父は一番綺麗な俥《くるま》を択《よ》って、お貞さんを乗せてやった。十一時に式があるはずのところを少し時間が後《おく》れたため岡田は太神宮の式台へ出て、わざわざ我々を待っていた。皆《みん》ながどやどやと一度に控所に這入ると、そこにはお婿《むこ》さんがただ一人質に取られた置物のように椅子《いす》へ腰をかけていた。やがて立ち上がって、一人一人に挨拶《あいさつ》をするうちに、自分は控所にある洋卓《テーブル》やら、絨氈《じゅうたん》やら、白木《しらき》の格天井《ごうてんじょう》やらを眺めた。突き当りには御簾《みす》が下りていて、中には何か在《あ》るらしい気色《けしき》だけれども、奥の全く暗いため何物をも髣髴《ほうふつ》する事ができなかった。その前には鶴と浪《なみ》を一面に描いためでたい一双の金屏風《きんびょうぶ》が立て廻してあった。
縁女《えんじょ》と仲人《なこうど》の奥さんが先、それから婿と仲人の夫、その次へ親類がつづくという順を、袴《はかま》羽織《はおり》の男が出て来て教えてくれたが、肝腎《かんじん》の仲人たるべき岡田はお兼さんを連れて来なか
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