》すんだから善《よ》くない」と父が調戯《からか》っていた。
「あしたになったら旦那様《だんなさま》がさぞ驚くでしょう」と母が笑った。お貞さんも下を向いて苦笑した。彼女は初めて島田に結った。それが予期できなかった斬新《ざんしん》の感じを自分に与えた。
「この髷《まげ》でそんな重いものを差したらさぞ苦しいでしょうね」と自分が聞くと、母は「いくら重くっても、生涯《しょうがい》に一度はね……」と云って、己《おの》れの黒紋付《くろもんつき》と白襟《しろえり》との合い具合をしきりに気にしていた。お貞さんの帯は嫂《あによめ》が後へ廻って、ぐっと締めてやった。
 兄は例の臭《くさ》い巻煙草《まきたばこ》を吹かしながら広い縁側《えんがわ》をあちらこちらと逍遥《しょうよう》していた。彼はこの結婚に、まるで興味をもたないような、また彼一流の批評を心の中に加えているような、判断のでき悪《にく》い態度をあらわして、時々我々のいる座敷を覗《のぞ》いた。けれどもちょっと敷居際《しきいぎわ》にとまるだけでけっして中へは這入《はい》らなかった。「仕度《したく》はまだか」とも催促しなかった。彼はフロックに絹帽《シルクハッ
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