、おそらく天下に一人もあるまいと思う。

        三十五

 自分は親戚の片割《かたわれ》として、お貞さんの結婚式に列席するよう、父母から命ぜられていた。その日はちょうど雨がしょぼしょぼ降って、婚礼には似合しからぬ佗《わ》びしい天気であった。いつもより早く起きて番町へ行って見ると、お貞さんの衣裳《いしょう》が八畳の間に取り散らしてあった。
 便所へ行った帰りに風呂場の口を覗《のぞ》いて見たら、硝子戸《ガラスど》が半分|開《あ》いて、その中にお貞さんのお化粧をしている姿がちらりと見えた。それから「あらそこへ障《さわ》っちゃ厭《いや》ですよ」という彼女の声が聞こえた。芳江は面白半分何か悪戯《いたずら》をすると見えた。自分も芳江の真似《まね》をやろうと思ったが、場合が場合なのでつい遠慮して茶の間へ戻った。
 しばらくしてから、また八畳へ出て見ると、みんながお召換《めしかえ》をやっていた。芳江が「あのお貞さんは手へも白粉《おしろい》を塗《つ》けたのよ」と大勢に吹聴《ふいちょう》していた。実を云うと、お貞さんは顔よりも手足の方が赤黒かったのである。
「大変真白になったな。亭主を欺瞞《だま
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