なり放《ほう》ってあったのだそうである。
 お貞さんは一座の席へ先刻《さっき》から少しも顔を出さなかった。自分はおおかたきまりが悪いのだろうと想像して、そのきまりの悪いところを、ここで一目見たいと思った。
「お貞さんはどこにいるんです」と母に聞いた。すると兄が「ああ忘れた。行く前にちょっとお貞さんに話があるんだった」と云った。
 みんな変な顔をしたうちに、嫂《あによめ》の唇《くちびる》には著るしい冷笑の影が閃《ひら》めいた。兄は誰にも取合う気色《けしき》もなく、「ちょっと失敬」と岡田に挨拶《あいさつ》して、二階へ上がった。その足音が消えると間もなく、お貞さんは自分達のいる室《へや》の敷居際《しきいぎわ》まで来て、岡田に叮嚀《ていねい》な挨拶をした。
 彼女は「さあどうぞ」と会釈《えしゃく》する岡田に、「今ちょっと御書斎まで参らなければなりませんから、いずれのちほど」と答えて立ち上がった。彼女の上気したようにほっと赤くなった顔を見た一座のものは、気の毒なためか何だか、強《し》いて引きとめようともしなかった。
 兄の二階へ上がる足音はそれほど強くはなかったが、いつでも上履《スリッパー》を引
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