こう》よ。本当の鼈甲《べっこう》じゃないんだって。本当の鼈甲は高過ぎるからおやめにしたんですって」と説明した。自分には卵甲という言葉が解らなかった。芳江には無論解らなかった。けれども女の子だけあって、「これ一番安いのよ。四方張《しほうばり》よか安いのよ。玉子の白味で貼《は》り付けるんだから」と云った。「玉子の白味でどこをどう貼り付けるんだい」と聞くと、彼女は、「そんな事知らないわ」と取り済ました口の利《き》き方《かた》をして、さっさと信玄袋を引き摺《ず》って次の間へ行ってしまった。
自分は母からお貞さんの当日着る着物を見せて貰った。薄紫がかった御納戸《おなんど》の縮緬《ちりめん》で、紋《もん》は蔦、裾《すそ》の模様は竹であった。
「これじゃあまり閑静《かんせい》過ぎやしませんか、年に合わして」と自分は母に聞いて見た。母は「でもねあんまり高くなるから」と答えた。そうして「これでも御前二十五円かかったんだよ」とつけ加えて、無知識な自分を驚かした。地《じ》は去年の春京都の織屋が背負《しょ》って来た時、白のまま三反ばかり用意に買っておいて、この間まで箪笥《たんす》の抽出《ひきだし》にしまった
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