えお直《なお》さん」と彼は嫂《あによめ》に話しかけた。この時だけは嫂もさすが変な顔をして黙っていた。自分も何とも云いようがなかった。兄はかえって冷然とすべてに取り合わない気色《けしき》を見せた。岡田はすでに酔って何事にも拘泥《こうでい》せずへらへら口を動かした。
「もっとも一郎さんも善くないと僕は思いますよ。そうあなた、書斎にばかり引っ込んで勉強していたって、つまらないじゃありませんか。もうあなたぐらい学問をすれば、どこへ出たって引けを取るんじゃないんだからね。しかし二郎さん始め、お直さんや叔母さんも好くないようですね。一郎は書斎よりほかは嫌いだ嫌いだって云っときながら、僕が来てこう引っ張り出せば、訳なく二階から下りて来て、僕と面白そうに話してくれるじゃありませんか。そうでしょう一郎さん」
彼はこう云って兄の方を見た。兄は黙って苦笑《にがわら》いをした。
「ねえ叔母さん」
母も黙っていた。
「ねえお重さん」
彼は返事を受けるまで順々に聞いて廻るらしかった。お重はすぐ「岡田さん、あなたいくら年を取っても饒舌《しゃべ》る病気が癒《なお》らないのね。騒々しいわよ」と云った。それで皆《み
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