」と自分の問を打ち消した。
「熱がそんなに有ったんですか」と自分はさらに別の事を尋ねた。
「それがね、熱は三十八度か八度五分ぐらいなんだから、そんなはずはないと思って、お医者に聞いて見ると、神経衰弱のものは少しの熱でも頭が変になるんだってね」
医学の初歩さえ心得ない自分は始めてこの知識に接して、思わず眉《まゆ》をひそめた。けれども室《へや》が暗いので、母には自分の顔が見えなかった。
「でも氷で頭を冷したら、そのお蔭で熱がすぐ引いたんで安心したけれど……」
自分は熱の引かない時の兄が、どんな囈語を云ったか、それがまだ知りたいので、薄ら寒い襖の蔭に依然として立っていた。
次の間《ま》は電灯で明るく照されていた。父が芳江に何か云って調戯《からか》うたびに、みんなの笑う声が陽気に聞こえた。すると突然その笑い声の間から、「おい二郎」と父が自分を呼んだ。
「おい二郎、また御母さんに小遣《こづかい》でも強請《せび》ってるんだろう。お綱、お前みたように、そうむやみに二郎の口車に乗っちゃいけないよ」と大きな声で云った。
「いいえそんな事じゃありません」と自分も大きな声で負けずに答えた。
「じゃ何だ
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