い、そんな暗い所で、こそこそ御母さんを取《と》っ捉《つら》まえて話しているのは。おい早く光《あか》るい所へ面《つら》を出せ」
父がこう云った時、明るい室《へや》の方に集まったものは一度にどっと笑った。自分は母から聞きたい事も聞かずに、父の命令通り、はいと云って、皆《みん》なの前へ姿をあらわした。
三十三
それからしばらくの間は、B先生の顔を見ても、三沢の所へ遊びに行っても、兄の話はいっこう話題に上《のぼ》らなかった。自分は少し安心した。そうしてなるべく家《うち》の事を忘れようと試みた。しかし下宿の徒然《とぜん》に打ち勝たれるのが何より苦しいので、よく三沢の時間を潰《つぶ》しにこっちから押し寄せたり、また引っ張り出したりした。
三沢は厭《あ》きずにいつまでも例の精神病の娘さんの話をした。自分はこの異様なおのろけを聞くたびに、きっと兄と嫂《あによめ》の事を連想して自《おのず》から不快になった。それで、時々またかという様子を色にも言葉にも表わした。三沢も負けてはいなかった。
「君も君のおのろけを云えば、それで差引損得なしじゃないか」などと自分を冷かした。自分はもうち
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