ったが、母を始め他《ほか》の者には無沙汰見舞《ぶさたみまい》の格で、何気なく例の通りの世間話をした。兄を交えない一家の団欒《だんらん》はかえって寛《くつろ》いだ暖かい感じを自分に与えた。
自分は帰り際《ぎわ》に、母をちょっと次の間へ呼んで、兄の近況を聞いて見た。母はこの頃兄の神経がだいぶ落ちついたと云って喜んでいた。自分は母の一言《いちごん》でやっと安心したようなものの、母には気のつかない特殊の点に、何だか変調がありそうで、かえってそれが気がかりになった。さればと云って、兄に会って自分から彼を試験しようという勇気は無論起し得なかった。三沢から聞いた兄の講義が一時変になった話も母には告げ得なかった。
自分は何も云う事のないのに、ぼんやり暗い部屋の襖《ふすま》の蔭《かげ》に寒そうに立っていた。母も自分に対してそこを動かなかった。その上彼女の方から自分に何かいう必要を認めるように見えた。
「もっともこの間少し風邪《かぜ》を引いた時、妙な囈語《うわごと》を云ったがね」と云った。
「どんな事を云いました」と自分は聞いた。
母はそれには答えないで、「なに熱のせいだから、心配する事はないんだよ
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