た。先生は「今日は君いやに意気銷沈《いきしょうちん》しているね」と云ったぎり話頭を転じて、他《ほか》のものと愚にもつかない馬鹿話を始め出した。自分は自分の前にある茶碗の中に立っている茶柱を、何かの前徴のごとく見つめたぎり、左右に起る笑い声を聞くともなく、また聞かぬでもなく、黙然《もくねん》と腰をかけていた。そうして心の裡《うち》で、自分こそ近頃神経過敏症に罹《かか》っているのではなかろうかと不愉快な心配をした。自分は下宿にいてあまり孤独なため、こう頭に変調を起したのだと思いついて、帰ったら久しぶりに三沢の所へでも話に行こうと決心した。

        三十

 その晩三沢の二階に案内された自分は、気楽そうに胡坐《あぐら》をかいた彼の姿を見て羨《うらや》ましい心持がした。彼の室《へや》は明るい電灯と、暖かい火鉢《ひばち》で、初冬《はつふゆ》の寒さから全然隔離されているように見えた。自分は彼の痼疾《こしつ》が秋風の吹き募《つの》るに従って、漸々《ぜんぜん》好い方へ向いて来た事を、かねてから彼の色にも姿にも知った。けれども今の自分と比較して、彼がこうゆったり構えていようとは思えなかった。高
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