《まゆ》と眼の光とを認めた。
自分は家を出てから、まだ一遍しか家《うち》へ行かなかった。その折そっと母を小蔭《こかげ》に呼んで、兄の様子を聞いて見たら「近頃は少し好いようだよ。時々裏へ出て芳江をブランコに載せて、押してやったりしているからね。……」
自分はそれで少しは安心した。それぎり宅《うち》の誰とも顔を合わせる機会を拵《こしら》えずに今日《こんにち》まで過ぎたのである。
昼の時間に一品料理を取寄せて食っていると、B先生(事務所の持主)がまた突然「君はたしか下宿したんだったね」と聞いた。自分はただ簡単に「ええ」と答えておいた。
「なぜ。家の方が広くって便利だろうじゃないか。それとも何か面倒な事でもあるのかい」
自分はぐずついてすこぶる曖昧《あいまい》な挨拶《あいさつ》をした。その時|呑《の》み込んだ麺麭《パン》の一片《いっぺん》が、いかにも水気がないように、ぱさぱさと感ぜられた。
「しかし一人の方がかえって気楽かも知れないね。大勢ごたごたしているよりも。――時に君はまだ独身だろう、どうだ早く細君でももっちゃ」
自分はB先生のこの言葉に対しても、平生の通り気楽な答ができなかっ
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