然の賜物《たまもの》だ。……」
兄はこういう風に、影を踏んで力《りき》んでいるような哲学をしきりに論じた。そうして彼の前に坐《すわ》っている自分を、気味の悪い霧で、一面に鎖《とざ》してしまった。自分にはこの朦朧《もうろう》たるものを払い退《の》けるのが、太い麻縄《あさなわ》を噛《か》み切るよりも苦しかった。
「二郎、お前は現在も未来も永久に、勝利者として存在しようとするつもりだろう」と彼は最後に云った。
自分は癇癪持《かんしゃくもち》だけれども兄ほど露骨に突進はしない性質であった。ことさらこの時は、相手が全然正気なのか、または少し昂奮《こうふん》し過ぎた結果、精神に尋常でない一種の状態を引き起したのか、第一その方を懸念《けねん》しなければならなかった。その上兄の精神状態をそこに導いた原因として、どうしても自分が責任者と目指されているという事実を、なおさら苛《つら》く感じなければならなかった。
自分はとうとうしまいまで一言《いちごん》も云わずに兄の言葉を聞くだけ聞いていた。そうしてそれほど疑ぐるならいっそ嫂《あによめ》を離別したら、晴々《せいせい》して好かろうにと考えたりした。
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