やみに引泣上《しゃくりあ》げる声が邪魔をしてほとんど崩《くず》れたまま自分の鼓膜《こまく》を打った。
 自分は例のごとく煙草を呑《の》み始めた。そうしておとなしく彼女の泣き止むのを待っていた。彼女はやがて袖《そで》で眼を拭いて立ち上った。自分はその後姿を見たとき、急に可哀《かわい》そうになった。
「お重、お前とは好く喧嘩《けんか》ばかりしたが、もう今まで通り啀《いが》み合う機会も滅多《めった》にあるまい。さあ仲直りだ。握手しよう」
 自分はこう云って手を出した。お重はかえってきまり悪気《わるげ》に躊躇《ちゅうちょ》した。
 自分はこれからだんだんに父や母に自分の外へ出る決心を打ち明けて、彼らの許諾を一々求めなければならないと思った。ただ最後に兄の所へ行って、同じ決心を是非共繰返す必要があるので、それだけが苦《く》になった。
 母に打ち明けたのはたしかその明くる日であった。母はこの唐突《とうとつ》な自分の決心に驚いたように、「どうせ出るならお嫁でもきまってからと思っていたのだが。――まあ仕方があるまいよ」と云った後《あと》、憮然《ぶぜん》として自分の顔を見た。自分はすぐその足で、父の居間
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