すると父が自分より早く口を開いた。
「そりゃ学理から云えばいろいろ解釈がつくかも知れないけれども、まあ何だね、実際はその女が厭になったに相違ないとしたところで、当人|面喰《めんく》らったんだね、まず第一に。その上|小胆《しょうたん》で無分別で正直と来ているから、それほど厭でなくっても断りかねないのさ」
 父はそう云ったなり洒然《しゃぜん》としていた。
 床《とこ》の前に謡本を置いていた一人の客が、その時父の方を向いてこう云った。
「しかし女というものはとにかく執念深《しゅうねんぶか》いものですね。二十何年もその事を胸の中に畳込んでおくんですからね。全くのところあなたは好い功徳《くどく》をなすった。そう云って安心させてやればその眼の見えない女のためにどのくらい嬉《うれ》しかったか解りゃしません」
「そこがすべての懸合事《かけあいごと》の気転ですな。万事そうやれば双方のためにどのくらい都合が好いか知れんです」
 他の客が続いてこう云った時、父は「いやどうも」と頭を掻《か》いて「実は今云った通り最初はね、そのくらいな事じゃなかなか疑《うたぐ》りが解けないんで、私も少々弱らせられました。それを
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