いろいろに光沢《つや》をつけたり、出鱈目《でたらめ》を拵《こしら》えたりして、とうとう女を納得させちまったんですが、ずいぶん骨が折れましたよ」と少し得意気であった。
やがて客は謡本を風呂敷に包んで露《つゆ》に濡《ぬ》れた門を潜《くぐ》って出た。皆《みん》な後《あと》で世間話をしているなかに、兄だけはむずかしい顔をして一人書斎に入った。自分は例のごとく冷《ひやや》かに重い音をさせる上草履《スリッパー》の音を一つずつ聞いて、最後にどんと締まる扉《ドア》の響に耳を傾けた。
二十
二三週間はそれなり過ぎた。そのうち秋がだんだん深くなった。葉鶏頭《はげいとう》の濃い色が庭を覗《のぞ》くたびに自分の眼に映った。
兄は俥《くるま》で学校へ出た。学校から帰るとたいていは書斎へ這入《はい》って何かしていた。家族のものでも滅多《めった》に顔を合わす機会はなかった。用があるとこっちから二階に上《のぼ》って、わざわざ扉を開けるのが常になっていた。兄はいつでも大きな書物の上に眼を向けていた。それでなければ何か万年筆で細かい字を書いていた。一番我々の眼についたのは、彼の茫然《ぼうぜん》と
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