からこう云われた時は、どんな凄《すさ》まじい文句を並べられるかと思って、少からず心配したそうである。
「幸い相手の眼が見えないので、自分の周章《あわて》さ加減を覚《さと》られずにすんだ」と彼はことさらにつけ加えた。その時女はこう云ったそうである。
「私は御覧の通り眼を煩《わずら》って以来、色という色は皆目《かいもく》見えません。世の中で一番明るい御天道様《おてんとさま》さえもう拝む事はできなくなりました。ちょっと表へ出るにも娘の厄介《やっかい》にならなければ用事は足せません。いくら年を取っても一人で不自由なく歩く事のできる人間が幾人《いくたり》あるかと思うと、何の因果《いんが》でこんな業病《ごうびょう》に罹《かか》ったのかと、つくづく辛い心持が致します。けれどもこの眼は潰《つぶ》れてもさほど苦しいとは存じません。ただ両方の眼が満足に開いている癖に、他《ひと》の料簡方《りょうけんがた》が解らないのが一番苦しゅうございます」
 父は「なるほど」と答えた。「ごもっとも」とも答えた。けれども女のいう意味はいっこう通じなかった。彼にはそういう経験がまるでなかったと彼は明言した。女は瞹眛《あいまい
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