》な父の言葉を聞いて、「ねえあなたそうではございませんか」と念を押した。
「そりゃそんな場合は無論有るでしょう」と父が云った。
「有るでしょうでは、あなたもわざわざ○○さんに御頼まれになって、ここまでいらしって下すった甲斐《かい》がないではございませんか」と女が云った。父はますます窮した。
 自分はこの時偶然兄の顔を見た。そうして彼の神経的に緊張した眼の色と、少し冷笑を洩《も》らしているような嫂《あによめ》の唇《くちびる》との対照を比較して、突然彼らの間にこの間から蟠《わだか》まっている妙な関係に気がついた。その蟠まりの中に、自分も引きずり込まれているという、一種|厭《いと》うべき空気の匂《にお》いも容赦なく自分の鼻を衝《つ》いた。自分は父がなぜ座興とは云いながら、択《よ》りに択って、こんな話をするのだろうと、ようやく不安の念が起った。けれども万事はすでに遅かった。父は知らぬ顔をして勝手次第に話頭を進めて行った。
「おれはそれでも解らないから、淡泊《たんぱく》にその女に聞いて見た。せっかく○○に頼まれてわざわざここまで来て、肝心《かんじん》な要領を伺わないで引き取っては、あなたに対して
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