よ」と父が答えた。客も自分も興味ありげに笑い出した。

        十六

 父には人に見られない一種|剽軽《ひょうきん》なところがあった。ある者は直《ちょく》な方《かた》だとも云い、ある者は気のおけない男だとも評した。
「親爺《おやじ》は全くあれで自分の地位を拵《こしら》え上げたんだね。実際のところそれが世の中なんだろう。本式に学問をしたり真面目に考えを纏《まと》めたりしたって、社会ではちっとも重宝がらない。ただ軽蔑《けいべつ》されるだけだ」
 兄はこんな愚痴とも厭味《いやみ》とも、また諷刺《ふうし》とも事実とも、片のつかない感慨を、蔭《かげ》ながらかつて自分に洩《も》らした事があった。自分は性質から云うと兄よりもむしろ父に似ていた。その上年が若いので、彼のいう意味が今ほど明瞭《めいりょう》に解らなかった。
 何しろ父がその男に頼まれて、快よく訪問を引受けたのも、多分持って生れた物数奇《ものずき》から来たのだろうと自分は解釈している。
 父はやがてその盲目《めくら》の家を音信《おとず》れた。行く時に男は土産《みやげ》のしるしだと云って、百円札を一枚紙に包んで水引をかけたのに、大き
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