ぜん》として心細い感に打たれた。
 十時過まで一つの席にほとんど身動きもせずに坐っていた男は、舞台で何をやろうが、ほとんど耳へは這入らなかった。ただ女に別れてから今日《こんにち》に至る運命の暗い糸を、いろいろに想像するだけであった。女はまたわが隣にいる昔の人を、見もせず、知りもせず、全く意識に上《のぼ》す暇《いとま》もなく、ただ自然に凋落《ちょうらく》しかかった過去の音楽に、やっとの思いで若い昔を偲《しの》ぶ気色《けしき》を濃い眉《まゆ》の間に示すに過ぎなかった。
 二人は突然として邂逅《かいこう》し、突然として別れた。男は別れた後《のち》もしばしば女の事を思い出した。ことに彼女の盲目が気にかかった。それでどうかして女のいる所を突きとめようとした。
「馬鹿正直なだけに熱心な男だもんだから、とうとう成功した。その筋道も聞くには聞いたが、くだくだしくって忘れちまったよ。何でも彼がその次に有楽座へ行った時、案内者を捕《つら》まえて、何とかかんとかした上に、だいぶ込み入った手数《てかず》をかけたんだそうだ」
「どこにいたんですその女は」と自分は是非確めたくなった。
「それは秘密だ。名前や所はい
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