手引で不意に会った。会ったのは東京の真中であった。しかも有楽座で名人会とか美音会《びおんかい》とかのあった薄ら寒い宵《よい》の事だそうである。
 その時男は細君と女の子を連れて、土間《どま》の何列目か知らないが、かねて注文しておいた席に並んでいた。すると彼らが入場して五分|経《た》つか立たないのに、今云った女が他の若い女に手を引かれながら這入《はい》って来た。彼らも電話か何かで席を予約しておいたと見えて、男の隣にあるエンゲージドと紙札を張った所へ案内されたままおとなしく腰をかけた。二人はこういう奇妙な所で、奇妙に隣合わせに坐った。なおさら奇妙に思われたのは、女の方が昔と違った表情のない盲目《めくら》になってしまって、ほかにどんな人がいるか全く知らずに、ただ舞台から出る音楽の響にばかり耳を傾けているという、男に取ってはまるで想像すらし得なかった事実であった。
 男は始め自分の傍《そば》に坐る女の顔を見て過去二十年の記憶を逆《さか》さに振られたごとく驚ろいた。次に黒い眸《ひとみ》をじっと据《す》えて自分を見た昔の面影《おもかげ》が、いつの間にか消えていた女の面影に気がついて、また愕然《がく
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