なかよし》と見えて、彼らが来るたびに謡をうたって楽《たのし》んだ。お重は父の命令で、少しの間|鼓《つづみ》の稽古《けいこ》をした覚《おぼえ》があるので、そう云う時にはよく客の前へ呼び出されて鼓を打った。自分はその高慢ちきな顔をまだ忘れずにいる。
「お重お前の鼓は好いが、お前の顔はすこぶる不味《まず》いね。悪い事は云わないから、嫁に行った当座はけっして鼓を御打ちでないよ。いくら御亭主が謡気狂《うたいきちがい》でもああ澄まされた日にゃ、愛想を尽かされるだけだから」とわざわざ罵《のの》しった事がある。すると傍《そば》に聞いていたお貞さんが眼を丸くして、「まあひどい事をおっしゃる事、ずいぶんね」と云ったので、自分も少し言い過ぎたかと思った。けれども烈《はげ》しいお重は平生に似ず全く自分の言葉を気にかけないらしかった。「兄さんあれでも顔の方はまだ上等なのよ。鼓と来たらそれこそ大変なの。妾《あたし》謡の御客があるほど厭《いや》な事はないわ」とわざわざ自分に説明して聞かせた。お重の顔ばかりに注意していた自分は、彼女の鼓がそれほど不味いとはそれまで気がつかなかった。
 その日も客が来てから一時間半ほど
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