れて来た。彼はますます書物と思索の中に沈んで行った。
八
こんな訳で、母の一番軽く見ていたお貞さんの結婚が最初にきまったのは、彼女の思わくとはまるで反対であった。けれども早晩《いつか》片づけなければならないお貞さんの運命に一段落をつけるのも、やはり父や母の義務なんだから、彼らは岡田の好意を喜びこそすれ、けっしてそれを悪く思うはずはなかった。彼女の結婚が家中《うちじゅう》の問題になったのもつまりはそのためであった。お重はこの問題についてよくお貞さんを捕《つら》まえて離さなかった。お貞さんはまたお重には赤い顔も見せずに、いろいろの相談をしたり己《おの》れの将来をも語り合ったらしい。
ある日自分が外から帰って来て、風呂から上ったところへ、お重が、「兄さん佐野さんていったいどんな人なの」と例の前後を顧慮しない調子で聞いた。これは自分が大阪から帰ってから、もう二度目もしくは三度目の質問であった。
「何だそんな藪《やぶ》から棒に。御前はいったい軽卒でいけないよ」
怒りやすいお重は黙って自分の顔を見ていた。自分は胡坐《あぐら》をかきながら、三沢へやる端書《はがき》を書いてい
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