たが、この様子を見て、ちょっと筆を留めた。
「お重また怒ったな。――佐野さんはね、この間云った通り金縁眼鏡《きんぶちめがね》をかけたお凸額《でこ》さんだよ。それで好いじゃないか。何遍聞いたって同《おんな》じ事だ」
「お凸額《でこ》や眼鏡は写真で充分だわ。何も兄さんから聞かないだって妾《あたし》知っててよ。眼があるじゃありませんか」
 彼女はまだ打ち解けそうな口の利《き》き方をしなかった。自分は静かに端書《はがき》と筆を机の上へ置いた。
「全体何を聞こうと云うのだい」
「全体あなたは何を研究していらしったんです。佐野さんについて」
 お重という女は議論でもやり出すとまるで自分を同輩のように見る、癖《くせ》だか、親しみだか、猛烈な気性《きしょう》だか、稚気《ちき》だかがあった。
「佐野さんについてって……」と自分は聞いた。
「佐野さんの人《ひと》となりについてです」
 自分は固《もと》よりお重を馬鹿にしていたが、こういう真面目《まじめ》な質問になると、腹の中でどっしりした何物も貯えていなかった。自分はすまして巻煙草《まきたばこ》を吹かし出した。お重は口惜《くや》しそうな顔をした。
「だって
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