とは何ですか」と空惚《そらとぼ》けたかった。けれどもそんな勇気はこの際出る余裕がなかったから、まず体裁の好い挨拶《あいさつ》だけをしておいた。
「こう時間が経《た》つと、何だか気の抜けた麦酒《ビール》見たようで、僕には話し悪《にく》くなってしまいましたよ。しかしせっかくのお約束だから聴《き》くとおっしゃればやらん事もありませんがね。しかし兄さんのいわゆる生き甲斐《がい》のある秋にもなったものだから、そんなつまらない事より、まず第一に遠足でもしようじゃありませんか」
「うん遠足も好かろうが……」
二人はこんな話を交換しながら、食卓の据《す》えてある下の室《へや》に入った。そうしてそこに芳江を傍《そば》に引きつけている嫂《あによめ》を見出した。
七
食卓の上で父と母は偶然またお貞さんの結婚問題を話頭に上《のぼ》せた。母は兼《かね》て白縮緬《しろちりめん》を織屋から買っておいたから、それを紋付《もんつき》に染めようと思っているなどと云った。お貞さんはその時みんなの後《うしろ》に坐《すわ》って給仕をしていたが、急に黒塗の盆をおはち[#「はち」に傍点]の上へ置いたなり席を
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