の品格が堕落する場合が多い。恐ろしい目に会う事さえある。まあ用心が肝心《かんじん》だ」と云った。
 お貞さんには兄の意味が全く通じなかったらしい。何と答えて好いか解らないので、むしろ途方《とほう》に暮れた顔をしながら涙を眼にいっぱい溜《た》めていた。兄はそれを見て、「お貞さん余計な事を話して御気の毒だったね。今のは冗談だよ。二郎のような向う見ずに云って聞かせる事を、ついお貞さん見たいな優《やさ》しい娘さんに云っちまったんだ。全くの間違だ。勘弁《かんべん》してくれたまえ。今夜は御馳走《ごちそう》があるかね。二郎それじゃ御膳《ごぜん》を食べに行こう」と云った。
 お貞さんは兄が籐椅子から立ち上るのを見るや否や、すぐ腰を立てて一足先へ階子段《はしごだん》をとんとんと下りて行った。自分は兄と肩を比《なら》べて室《へや》を出にかかった。その時兄は自分を顧みて「二郎、この間の問題もそれぎりになっていたね。つい書物や講義の事が忙《いそが》しいものだから、聞こう聞こうと思いながら、ついそのままにしておいてすまない。そのうちゆっくり聴《き》くつもりだから、どうか話してくれ」と云った。自分は「この間の問題
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