々眺めている事がありますよ」
自分はなるべく兄を慰めようとして、いろいろな話をしていた。そこへお貞さんが下から夕食の報知《しらせ》に来た。自分は彼女に、「お貞さんは近頃|嬉《うれ》しいと見えて妙ににこにこしていますね」と云った。自分が大阪から帰るや否や、お貞さんは暑い下女室《げじょべや》の隅《すみ》に引込んで容易に顔を出さなかった。それが大阪から出したみんなの合併《がっぺい》絵葉書《えはがき》の中《うち》へ、自分がお貞さん宛《あて》に「おめでとう」と書いた五字から起ったのだと知れて家内中大笑いをした。そのためか一つ家にいながらお貞さんは変に自分を回避した。したがって顔を合わせると自分はことさらに何か云いたくなった。
「お貞さん何が嬉《うれ》しいんですか」と自分は面白半分追窮するように聞いた。お貞さんは手を突いたなり耳まで赤くなった。兄は籐椅子《といす》の上からお貞さんを見て、「お貞さん、結婚の話で顔を赤くするうちが女の花だよ。行って見るとね、結婚は顔を赤くするほど嬉しいものでもなければ、恥ずかしいものでもないよ。それどころか、結婚をして一人の人間が二人になると、一人でいた時よりも人間
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